素顔が見られる、女の子投稿型フォトダイアリー。
エピローグ
__俺は窮地に陥っている。
ニッコニコで俺に微笑み掛ける可憐な桜さん。
「竹ちゃーん…?Kさんがまた、君の事を心配していたよ?"怪我が絶(た)えなくて大変だね。"って。」
だが、その花が開いた顔付きも瞬時に、その笑顔が無へと変わる。
「…………まさか、"あの事を"言ってないでしょうねぇ?」
俺を呼び止めた桜さんはネクタイが緩んでいる事に気付き、彼女はそれを掴むと勢いよく喉元まで締めてくる。
首の根本を締め付けられる苦しみから、訳が分からず混乱したが桜さんの言葉でピーンと来た。
「い、言ってないです!桜さんが【お客さんに階段から突き飛ばされた】なんて言ってないです!!」
慌てて桜さんに弁明したは良いものの。
ここでいらん事を言ってポカを発揮するのは俺の悪いところ。
「姫さんが落ちて受け止める際にエルボー喰らったという流れにしましたけど!」と余計な一言で火に油を注ぐ一級資格を俺は持っているのだ。
「余計、達が悪いわ!!凶暴な女の子がお店の中にいるのかと純粋なKさんが疑ったらどうしてくれんのよ!!」
「すみません!以後気をつけます!!」
案の定(あんのじょう)、火を吹く勢いで怒られた。
ネクタイを掴む力は少し緩んだけれど、怒り冷めやらぬその勢いが止(とど)まる所を知らない。
その時、漸(ようや)く救いの手が現れた。
「桜、いい加減に止めな。そんな声が大きいとご近所迷惑になるでしょう。」
「「"野薔薇(のばら)"さん(っ!)…。」」
切れ長の目を鋭くさせた野薔薇さんが、視線をネクタイに流す。
「………は〜い。」
それに気付いた頭のいい桜さんは、バツが悪そうに渋々と掴んでいた手を下ろした。
「今日は終わりなんだろう?次の予約まで私が話を聞くから"坊や"を解放してやんな。」
「でもっ!この子が余計な事を言ったかもしれなくて…っ。」
「折角、【素敵な男】を虜にして気持ちよく帰らせたのにあんたが"男を想って"怒るのは少し、話が違うでしょう。」
野薔薇さんの言葉に重みを受け止めながら、年上の貫禄を肌で感じる。
そんな彼女に逆らえない空気に2人で唖然(あぜん)と棒立ちする事しかできなかった。
「それに、坊やはそこまで馬鹿じゃないだろう。少しは信じてやんな。」
「野薔薇さん…っ!」
俺のフォローをしてくれるなんて、嬉しさから涙が浮かび上がってしまう。
それに気付いたのか桜さんは徐(おもむ)ろに片足を上げて、俺の足の甲に目掛けて勢いをつけて踏み付けた。
「いっd「でれっとしてんじゃないわよっ!」くぅぅっ!!」
「何してんだい、桜。行くよ。」
「はーい!野薔薇さん待って!」
桜さんにとって、尊敬の念を抱いている先輩に言葉を掛けられたら逆らうことなどしない。
付き従うように野薔薇さんの後ろを追い掛けて、待機場所へと向かった。
本人にとっては実の家族のように、親しみやすい姉さんからの申し出にとても喜んでいる。
それはまるで、
【大好きな姉の後ろをちょこちょこと着いていく幼い妹のような】印象すら感じられた。
きっと、このあと彼女はその嬉しさから2人で会話に花を咲かせるのだろう。
俺は彼女達を思いながらその流れを想像して口角を上げ、気を引き締める。
力一杯、踏み付けられてしまった足の痛みはまたまだ後を引きながらも次の予約確認の為に仕事へと戻った。