素顔が見られる、女の子投稿型フォトダイアリー。
「さて、張り詰めた空気はお終いにしよう。さっきのは君に【お店側の都合を】押し付けてしまったからね。次に俺、個人の"気持ちを"君に聞いてほしい。」
笑いが漸く落ち着いたのか、パンっと両手を鳴らして空気を切り替える。
「最初は俺の行動や言葉で君は怒りに任せての顔が出てた。」
ポツリと呟かれた言葉に自分の、なりふり構わずの行動を思い返しバツが悪くなる。
私は言い返すこともせずにそのまま、次の言葉を待つ。
「だけど、話が進むにつれて徐々に君の変化が垣間(かいま)見えたんだよね。」
一拍置いてから男は両目を瞑り、ゆっくりと瞼を開いてから口角を上げる。
そして何が嬉しいのか、それを噛み締めるかの様に彼の声色には温かさを感じさせられた。
「その変化から、君の"すごい所"を俺は瞬時に感じ取った。」
男は私の顔を見つめる。
「それはね、話の途中で君は"沈黙"を選んだんだよ。無意識かもしれないけど、【君"も"頭が良いなぁ?】」
「えっ……?」
(頭が、良い…?)
そんな事、一度だって言ってもらった事がない。私のおろおろとした反応に気付いた男は「何に対してか、を教えるから心配しないで」と宥める。
「"それ"は相手の話を聞く。難しく言うと所謂(いわゆる)【傾聴(けいちょう)】の姿勢に君は移ったんだよ。」
___傾聴…。
「勿論、君に話を聞いて欲しかったから俺も頭を働かせたけどね?」と男は軽くウインクしておちゃらける。
「簡単に言えば、【話の意味を自分の力で"心や頭"で想像して理解しようとした】んだ。」
「想像…。」
「驚くよね。だから、スマホを持たせないからさぁ。SNSも禁止だし、彼氏(仮?)?にも会うことは出来ないし…勿論、家族にも会えないんだよ。」
男がお店での鉄則を振り返りながら、発言する度に徐々にその怖さから冷や汗で両手を濡らす。
「あと、整形やタトゥーとかも、してはいけないからお店の"管轄"から出るのは駄目でしょう?ヘアメイクさんは身内にいるから美容院も駄目なんだよねぇ。」
指を一本、一本立てては其々、店にとって駄目な事を言葉にして私に分かりやすく伝えてくる。
「この話だけでも今の現代っ子にはスマホ所持が当たり前だから、それを手元に置いておくことすら駄目って言っている厳しいお店なんだよね。」
ぽりぽりと人差し指で頬を掻いてから、再び疑問を問いかけられる。
「さて、これらを踏まえた上で他にどんな方法で集客をするのかな?」
「あ、えっと…」
「重ねて不安を煽るようで申し訳ないんだけど、技術力や対話力はそこまで求めていない。だって必要なものは経験を重ねて磨き上げていくものだからね。」
「…………。」
どうしよう、考えても考えても相手が欲しがる"言葉"が見つからない。
試されているのか?それとも身の丈に合わない場所に置けないと暗に伝えられているのだろうか?
沈黙がこの部屋の空気を重くする。
「本当はこの店に入れば伝えることはいくらでも出来るんだけど…。俺は【店の人間を守る義務】があるからね。君を信じて、『では、明日からよろしくね。』が出来ないんだよ。分かってくれるかい?」
「………はい。」
喉が詰まる痛みに耐えながら一言だけでも口に出す。その瞬間、涙が溢れそうになるが負けじとぐっと目に力を入れて堪えるが一筋の涙が頬を濡らす。
「………っふふ。はははは!!なんだ!裏垢の性格とは打って変わって君、とってもいい子じゃん!!」
「……………は?」
突然、タガが切れた様に男が部屋中に響き渡るほどの笑い声を挙げたのだ。
その姿に私は目を丸くして、未だに目の前の男は自身の腹を両手で抑えながら長い両足をバタバタと揺らして子供の様に笑い続けている。
男はふと優しい笑顔を向けてから、口を開いた。
「いくつかに分けて、一つ目に俺が"疑問"に思った事は【求人も出していない】この店に面接に来た"君を"お店側が怪しむのは至極(しごく)真っ当な事なのは、君でも分かるかな?」
優しい声色で顔色も柔らかく私を怖がらせない為かは分からないが、ゆっくりと言葉を選んで話をする男に素直にコクリと頷いてしまう。
「2つ目、入る動機が【花魁】を目指したいため。んー…。志を高く持つのはとてもいい事だし、やる気がありそうな"目的"の一つだと俺は思うけど。どうやって"自分で"目指すかは計画している感じかな?」
「SNSや日記を通じて呼び込む事で集客を…」
質問に対して一般的な回答をすると、顎に手を当てて聞いていた目の前の男は渋るように声色が低く言葉を紡ぐ。
「なるほど…。そこで"悪い知らせ"なんだけど。俺の店では"それ"をさせずに集客に力を入れているんだよね。」
男は重い口調で言葉を紡ぐ。
「もし、お店に入店って話になったらスマホを解約させてGPSやバイタル確認が盛り込まれた特殊なケータイを持たせて防犯も兼ねて"監視"しているんだ。」
「はっ?」
スマホを持たせない?特殊なケータイ持たせて【監視】?
目を見開いて申し訳なさそうな表情で私の顔色を伺いながら男は次の言葉を待つ。
次回へ続く。
「謝って済む話じゃねぇだろうがっ!!プライバシーって知ってるのかよっ!?人の日常を勝手に見られた挙句、それをネタにして脅すつもりかよ!?なぁ!?」
「え?なんでそう思ったの?」
私の言葉を聞いていた男はキョトンと、目を丸くする。
私はその顔を目にした瞬間に拍子抜けしてしまう。
「…っ、はぁ!?」
「だから、なんで"脅す"って言葉が出たの?その上、俺が君に"それ"をする理由も、【何もないのに】何故、そっちの方に思考回路が働いちゃったの?」
「っ、…!?、?…??」
男はさらりと疑問を投げかけ、それを咄嗟に受け止めた私は訳が分からなくなって言葉に詰まってしまった。
それを見かねてか、男は続けて声色を変えずに言葉を並べたてる。
「そもそもの話なんだけど、君が"俺の店"に面接に来た話から遡らせて貰うね。」
ゆっくりと答え合わせをする様に男は話の場の"空間"を作り上げた。
「まず、ここへ面接に来てくれた事に関してはとても嬉しい。"ありがとう"の気持ちでいっぱいだ。」
「ただ…、」と続ける男が疑問を投げかける。
「実は【此処さ】、俺が直々にスカウトした子じゃないと入れないって話を聞いたことない?この業界の人なら大体は知っている筈なんだけど…。」
【スカウトした子しか入れない。】…噂程度でしか聞いたことが無かったけれど、それがまさかここだった…?
その言葉を聞いて体に緊張が走る。
その反応を見逃さなかったのか、「あ、認識は半々だった感じだね。」と苦笑いをする男。
怒るでも呆れるでもなく、"現実を受け止める"その姿に私は座っていた椅子から無意識に姿勢を正してしまう。
次回へ続く。
「へぇ…。ホストに一回で100万越えのシャンパンタワーをして、その上でアフターして貰い。かァらの、彼氏(仮?)と夜を過ごす…。一夜にしてこの情報量の多さ。すごいね、俺には想像がつかない世界で驚いちゃうな。」
(な、なんでっそのアカウントを知ってるんだよっ!!)
目の前の男にスマホの画面を見せられて「これ、君だよね?」と尋ねられた瞬間に息を呑んだ。
目に映ったのは見慣れたSNSの画面表記。昨日、写真付きで投稿した"裏垢"の内容の一つだったのだ。
頭に血が昇り、口をわなわなと震わせながら目の前の男を睨みつける。
それに気がついた男はにっこりと微笑みながらこう囁く。
「ほら、この"業界の人間"の素性は【ある程度】知っておかないと自分の店にどんな影響を及ぼすか分からないからね。俺もこの店の責任者である身からしてみれば、事前の下調べは重要なんだよ。」
「嗚呼、アカウント特定に関しては怖い思いをさせてしまってすまないね。」と眉尻を下げて謝罪をする男。
その姿に余計、火に油注がれた感覚を覚えた私は怒りで声を荒げてしまう。
次回へ続く。
エピローグ
__俺は窮地に陥っている。
ニッコニコで俺に微笑み掛ける可憐な桜さん。
「竹ちゃーん…?Kさんがまた、君の事を心配していたよ?"怪我が絶(た)えなくて大変だね。"って。」
だが、その花が開いた顔付きも瞬時に、その笑顔が無へと変わる。
「…………まさか、"あの事を"言ってないでしょうねぇ?」
俺を呼び止めた桜さんはネクタイが緩んでいる事に気付き、彼女はそれを掴むと勢いよく喉元まで締めてくる。
首の根本を締め付けられる苦しみから、訳が分からず混乱したが桜さんの言葉でピーンと来た。
「い、言ってないです!桜さんが【お客さんに階段から突き飛ばされた】なんて言ってないです!!」
慌てて桜さんに弁明したは良いものの。
ここでいらん事を言ってポカを発揮するのは俺の悪いところ。
「姫さんが落ちて受け止める際にエルボー喰らったという流れにしましたけど!」と余計な一言で火に油を注ぐ一級資格を俺は持っているのだ。
「余計、達が悪いわ!!凶暴な女の子がお店の中にいるのかと純粋なKさんが疑ったらどうしてくれんのよ!!」
「すみません!以後気をつけます!!」
案の定(あんのじょう)、火を吹く勢いで怒られた。
ネクタイを掴む力は少し緩んだけれど、怒り冷めやらぬその勢いが止(とど)まる所を知らない。
その時、漸(ようや)く救いの手が現れた。
「桜、いい加減に止めな。そんな声が大きいとご近所迷惑になるでしょう。」
「「"野薔薇(のばら)"さん(っ!)…。」」
切れ長の目を鋭くさせた野薔薇さんが、視線をネクタイに流す。
「………は〜い。」
それに気付いた頭のいい桜さんは、バツが悪そうに渋々と掴んでいた手を下ろした。
「今日は終わりなんだろう?次の予約まで私が話を聞くから"坊や"を解放してやんな。」
「でもっ!この子が余計な事を言ったかもしれなくて…っ。」
「折角、【素敵な男】を虜にして気持ちよく帰らせたのにあんたが"男を想って"怒るのは少し、話が違うでしょう。」
野薔薇さんの言葉に重みを受け止めながら、年上の貫禄を肌で感じる。
そんな彼女に逆らえない空気に2人で唖然(あぜん)と棒立ちする事しかできなかった。
「それに、坊やはそこまで馬鹿じゃないだろう。少しは信じてやんな。」
「野薔薇さん…っ!」
俺のフォローをしてくれるなんて、嬉しさから涙が浮かび上がってしまう。
それに気付いたのか桜さんは徐(おもむ)ろに片足を上げて、俺の足の甲に目掛けて勢いをつけて踏み付けた。
「いっd「でれっとしてんじゃないわよっ!」くぅぅっ!!」
「何してんだい、桜。行くよ。」
「はーい!野薔薇さん待って!」
桜さんにとって、尊敬の念を抱いている先輩に言葉を掛けられたら逆らうことなどしない。
付き従うように野薔薇さんの後ろを追い掛けて、待機場所へと向かった。
本人にとっては実の家族のように、親しみやすい姉さんからの申し出にとても喜んでいる。
それはまるで、
【大好きな姉の後ろをちょこちょこと着いていく幼い妹のような】印象すら感じられた。
きっと、このあと彼女はその嬉しさから2人で会話に花を咲かせるのだろう。
俺は彼女達を思いながらその流れを想像して口角を上げ、気を引き締める。
力一杯、踏み付けられてしまった足の痛みはまたまだ後を引きながらも次の予約確認の為に仕事へと戻った。
7: 桜花爛漫(おうからんまん)
あれから、数回彼女の中で果てては酒を摂取したかの様に脳が酩酊し始めた。
普段だったら酒で気持ち悪さを感じる酔い具合だが、今は違う。
満足感が止まらない、そんな嬉しさの酔いに荒んだ心が潤いで満たされたのだ。
「Kさん、ちゃんと水分補給してね。身体壊しちゃうよ。」
「あ、ありがとうございます。……桜さん、いつも日にちが空いちゃってごめんね。」
「えっ?」
「俺はここが"初めて"だから。こういうお店の【常識】とか知らないからさ…。頻繁に来れれば良いんだけど…」
ヤバい、日常的な"慣れ"でこのままだと暗い話に流れてしまう。
そう思い始めたら焦りで、目を泳がせた。
俺はいっつもこうだ。根暗だから楽しい話題すら女の子と普通に会話する事も出来ない。
折角、激務を乗り越え頑張って手に入れた貴重な時間が無駄になってしまう。
すぐに口を開こうとすれば突然、「ムギュっ」と白い手のひらで両頬を優しく包み込まれた。
「いつもKさんが、"頑張って会社の支えになっている事"を知ってるよ?どうして、そんな不安そうな顔をするの?Kさん自身に失礼だよ。」
彼女はそう答えながら、にっこりと笑う。
そんな顔で俺を見つめながらも相も変わらず、桜さんはその柔らかい手のひらで俺の顎をムニムニしながら弄(もてあそ)ぶ。
「私がKさんにそんな気持ちを抱かせてしまうくらいには、Kさんからそれ程まで【さくらを気に入ってもらえている】と感じれて自信が付く」
「けれど、Kさんが不安になる様な顔になるのはちょっと腑に落ちない。どうして?さくらを喜ばせてくれるのは、いつもKさんだけなのに。」
その言葉を耳にした瞬間、顔が熱に包まれる。
危うく、目頭すら熱くなり掛けてしまった。
"初めて"会った時もこうして温かい言葉と、その笑顔で心が救われたことを思い出してしまう。
あの時の君は少しだけ、目に怒りと力が込められていたけれどそれは"心配"から来るものだって数回目の逢瀬(おうせ)に聞いたんだったな。
「桜さん、ありがとう。君と逢うためにまた、仕事を頑張れるよ」
「頑張り過ぎないでね。と言っても…、真面目で気遣い上手のKさんは無理しちゃうんだろうなぁ」
「いつもながら、こんな俺を褒めてくれてありがとう」
「謙虚すぎるよ…。まぁ"さくらだけが"Kさんの頑張りを知っているのは、満更でもないけれどねっ。」
えっへん。と効果音が付きそうな、そのドヤ顔に愛おしさが込み上がる。
この子の魅力は、いつも『明日への糧となる勇気をくれる。』
また、この子に逢う為にも今後も力を入れて仕事を取り組まなければならないな。
「また、必ず君に逢いにくるよ。君の笑顔を見たいから。」
その言葉を掛けた瞬間、満開の桜の様に彼女は幸せそうに笑ってくれた。
次回に続く。
5: 乱れ桜
ある程度の水をタオルで拭き取ってもらい、直様(すぐさま)ベッドへと足早に2人で傾(なだ)れ込む。
「んふふ。Kさん、だいぶ余裕がなくなってるね?接吻(キス)"も"気持ちよかった?」
「めっちゃ、気持ちよかったです。」
「あはははっ。それなら、良かった。私もKさんとの接吻で濡れちゃった。ねぇ、聞こえる?」
__くちゅり。と自身の"薔薇の花周り"をその細い2本の指で弄る。
触れた箇所から僅かに音を鳴らして、挑発する様に目を細める桜さん。
何ヶ月もの間、触れたくて仕方がなかった彼女の肢体(したい)が今、この瞬間から存分に堪能が出来るのだと実感すれば、自分の脳が痺れて酔いそうになる。
「私の身体、たくさんKさんに触(ふ)れて欲しいなぁ。接吻もたくさんしよう?」
そう口にした彼女は、細い両腕を俺の首に回して、グッと顔を近づけた。
触れそうか触れそうじゃない距離で止めて、吸いつきたくなるその唇を緩やかに開けばこう囁く。
「今日は、満足するまで思う存分に乱れちゃおうよ。」
甘い声を耳にしたその瞬間、衝動を抑える僅かな細く巻かれた糸がプツンと切れる音がした。
6: 舞い散る花の如し
それからは無我夢中だった。
拙い腰の動きが自分ですら、もどかしさを感じるのに下にいる桜さんは平気だろうか。
その不安を誤魔化す様に何度も、彼女の唇に触れては中の締め付け具合に理性が吹っ飛びそうになる。
自身を突き上げる度に、桜さんの細い唇から漏れ出す吐息と善がり声でそれが、より俺の中では興奮剤となった。
動きに激しさが増す中でも、甘い声を上げながら俺の身体へと細い手足を懸命(けんめい)に巻き付けてくる。
その強い衝動に応えてくれる健気(けなげ)な姿に目を細めながら嬉しさが溢れた。
(何とも、愛らしい子だよなぁ…。)
耳元で感じる微かな吐息に、脳がどこまでも蕩けそうになる。
この瞬間も含めて、これから1分1秒と時間が流れようとも、この間(ま)に無駄な会話なんていらない。
思うがままに快楽を感じられれば、それで良いのだ。
次回に続く。
3: 花の顔(かんばせ)
名前を呼ばれるまでのこの時間が、短い筈なのに長く感じてしまう。
今か今かと待つ、この心境はまるでコンサートや舞台劇の幕が上がるのを待っているかのようだった。
そんな思いが届いたのか頭上から声が降ってきた。
「Kさん、大変お待たせ致しました。姫さんの所までご案内致しますね。」
その声と共に立ち上がれば、竹谷さんの後ろを着いて歩き出す。
やっとだ。何ヶ月も彼女と時間を過ごす為にキツイ業務やパワハラのハゲ茶瓶(ちゃびん)上司に負けじと耐え抜いたのだ。
今日までそれを乗り越えて、苦労してきた甲斐が報われるんだ。と心が弾(はず)む。
少し歩いた先に案内を促(うなが)された俺は、曲がり角で待つ『一輪の花』の顔(かんばせ)に心を奪われる。
「Kさん、お久しぶりだね。逢いたかったよ。」
「"桜さん"、俺もずっと逢いたかった…。」
4: 泡沫(うたかた)
案内された部屋に足を踏み入(い)れば、すかさず桜さんの手によって瞬(またた)く間に服が剥がされる。
"剥がされる"と言っても乱雑にではなく、彼女の細い指から感じる暖かさはカサついた俺の肌に触れる度に身体がピクリと反応してしまう。
優しくゆっくりと撫でる、その手つきはくすぐったさを感じるが徐々に俺の緊張が解れていくのが分かる。
「…Kさん。今日も、シャワーから浴びる?このまま続けても良いなら、さくらは久しぶりのKさんを感じたいなぁ。」
「今日も、"仕事終わり"からここに来たのでシャワーをお願いしたいかな。」
「ふふ。じゃあ、シャワーを浴びようか。こっち来て。」
誘われるがままに彼女に手を引かれて、浴室に入る。
桜さんは手際のいい動きでボディーソープに泡を作り始めてから俺の肌に泡をつけ始めた。
服を脱がす時と同じ、優しい手つきで俺に触れてくれば自ずと反応してしまう。
滑りが良くなったその指先が流れるように、いやらしく撫ぜる。
彼女の笑顔を見ながら俺は僅かにそそり立つ"ソレ"を感じ取りながら、柔らかいその細い手が触れる度に自分が纏う雰囲気に欲が濡れ始めた。
それに桜さんは気づいたのか、大きい瞳を隠すように両の目を細めて俺と目線を合わせる。
「まだだよ…。ベッドに入ってから、ね。」
その言葉を皮切りにゆっくりとゼリーの様なぷるりとした唇を近づけて、カサついて慣れ親しんだ俺の唇を塞いだ。
次回へ続く
1: 華金
今日は念願の給料日。
待ちに待ったこの日に、(今日こそはっ。)と
激動の業務を数ヶ月間乗り越えた俺はある場所へと足を運ぶ。
そう、とある"花"に逢いに行ける日なのだ。
いつもの俺だったら、
憎き会社に向かう為のこの足が、何度も止まりそうになるのに今の俺は止(とど)まる事を知らない。
それは、俺の"使命感"から来るからだ。
【彼女】に会う為に足早に道を進めば、見慣れた店の看板が目についた。
当時、初回で緊張していた俺はこのキラキラした門が前すら、通るのを恥ずかしさのあまり躊躇(ちゅうちょ)していた。
だが、今となっては堂々とその店の扉を潜(くぐ)れるほど、心が成長した俺にはなんの躊躇(ためら)いすらもない。
……たまに臆することもあるが、な。
2: 竹を割ったような男
「すみません、予約した者ですが…。」
その直後、勢いよく見慣れた黒服が近づいて来た。
「Kさんっ!いらっしゃいませ!待ってましたヨォっ。」
「えぇ……?前回に比べて、酷い有様ですね。どうしたんですか、その顔…。」
目についた衝撃的な顔に突然の俺は驚く。
男の目の前まで現れた青年は、鼻の周りを大きなガーゼで止めたなんとも痛々しい顔立ちだったのだ。
(この男、前回も額とかに傷を作ったりしているがよく生きているな…。)
結構、イケメンの部類だと俺ですら思うのに来る度に毎回、怪我をしているから勿体無いよなぁ。
「いやはや!姫さんの1人が階段で倒れそうなところを助けようとしたら、エルボー喰らっちゃいましてね!見て下さい、この鼻。」
「いやいや、見せなくていいですからっ。その方は竹谷さんのおかげで無事だったんですね。」
「なんとか、守り抜きましたよぉ〜。さて、準備が出来次第のご案内をしますね。こちらのお席でお待ち下さい。」
相変わらず、屈託のない優しい青年で感心するなぁ。
普段、仕事で没頭(ぼっとう)している不健康な俺より儚(はかな)く突然いなくなりそうで不安が過(よぎ)ってしまう。
頼むから長生きしてくれよ。
次回に続く。